癌からくる痛みではない慢性の耐え難い強い痛みがあり、通常の消炎鎮痛薬では効果がほとんどない患者さんは結構おられます。原因として多いのは、帯状疱疹後神経痛（トピックス既述）、神経の傷でおこる複合性局所疼痛症候群（トピックス既述）、線維筋痛症（トピックス既述）、それに頚部や腰部の慢性の根性神経痛などが挙げられます。
 それらの痛みに麻薬性鎮痛薬が使われることはアメリカでは以前より一般的に行われてきました。しかし日本では麻薬イコール麻薬中毒、また使用されるのは末期癌患者の痛みのみと考えられてきました。ところが最近日本でも医師の考え方が変化し、麻薬性の鎮痛薬を良性疾患の痛みにも少しずつ使用されるようになってきています。さらに以前は麻薬性の鎮痛薬は神経障害による痛みには効かないと考えられてきましたが、上記したような神経障害性の痛みにも十分効果があることがわかってきました。
　保険適応では癌の痛み以外で、麻薬性の鎮痛薬が使用できるのは、リン酸コデインと塩酸モルヒネだけです。ただし、保険適応の塩酸モルヒネの量は１日最大３０ｍｇまでです。塩酸モルヒネの効果時間は３～４時間なので、間欠的な痛みには３０ｍｇ（３錠）で対応できますが、持続的な痛みには３０ｍｇでは効果が切れる時間がどうしても生じます。
　通常はリン酸コデインをまず使用し、効果がなければ塩酸モルヒネに変更する方法がよく行われる使用法です。デュロテップパッチというフェンタニール製剤も使用できるようになりましたが、期間が限定されており、１月までです。
　しかし、特にモルヒネはいわゆる習慣性、どんどん使用量がふえて行き、中毒になると一般的には医師も含めて考えられていましたが、実際使用してみると、初期の投与量よりも使用量は増加してゆきますが、際限のないものではなく、うまく使えば、痛みに対して大きな効果があります。モルヒネに対する薬剤依存性は２％程度とされています。
　モルヒネの副作用としては、便秘症、吐き気、かゆみ、眠気などが主なものですが（急に大量を投与すると呼吸抑制がおきますが、徐々に増加すればその恐れはありません）、それらの症状に便秘薬や吐き気止めを併用すれば、大きな障害になることはあまりありません。またこれらの副作用も使用し始めた時に主に出現し、段々軽くなることが多いです。また、モルヒネの使用量が段々増加しても副作用が増強することはほとんどありません。
　ただし、モルヒネが無効の痛みの場合もあり、モルヒネを使用するにあたり、ドラッグチャレンジテスト（トピックス既述）を行って有効かどうかを調べてから、内服投与することが勧められます。さらにモルヒネの作用、効果、副作用に精通している医師（ペインクリニック医、または癌患者の疼痛管理（緩和ケア）を経験した医師が良いと思います）に処方してもらうことが大切です。