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硬膜外ブロック

 硬膜外ブロックは星状神経節ブロック、トリガーポイント注射とともにペインクリニックで最も多用される手技で、いわばペインクリニックのブロック手技の3本柱のひとつと言えるでしょう。首、腕、背中、腰、下肢の様々な痛みで、脊椎、脊髄が関係している痛みにはすべて適応できます。その硬膜外ブロックについてお話し致します。
 
まず、硬膜外ブロックは脊髄や神経に針は全くさわらない注射であることを御承知ください。脊髄のまわりは硬膜という膜におおわれ、その外側に空間があり、それが硬膜外腔で、そこに局所麻酔薬と炎症を抑える薬剤を注入すると、痛みの原因である炎症を起こしている神経、じん帯、関節に集中的に薬がしみ込んで、炎症を抑え痛みがとれるのです。
 しかし、これらの薬剤を筋肉注射、点滴などで全身投与しても薬剤は全身に均等に広がるため、実際、痛みの原因部分にとどく薬の量は硬膜外ブロックに比べて、比較にならないほど少なく、同じ薬剤を同じ量だけ投与しても硬膜外ブロックと全身投与では、大きな効果の差がでるのです。
 
硬膜外ブロックの適応疾患としては、頚部では、頚椎椎間板ヘルニア、頚部脊柱管狭窄症、むち打ち症、変形性頚椎症、胸郭出口症候群、慢性の頚部、肩、肩甲部の痛みなど。胸部では、胸椎椎間板ヘルニア、胸椎捻挫など。腰部では、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、慢性腰痛、骨粗鬆症による腰痛、ギックリ腰、坐骨神経痛、大腿神経痛などで、その他にも、帯状疱疹、神経の傷による神経痛(反射性局所疼痛症候群)などです。

 当院においては過去8万回以上の硬膜外ブロックをすべて安全にトラブルなく行っています。手技にかかる時間は1~2分で、まずツベルクリン針と同じ太さのごく細い針で局所麻酔を行って痛みをとってから、硬膜外ブロックには特別製の細い針(通常の採血時に使用する針と同じ太さの針で先端が彎曲しておりツーイ針といいます)を使用していますので、注射の痛みもみなさんが思っているよりずっと軽いと思います。
 ただ、多くの若い医師に硬膜外ブロックの指導をしてきた私の経験から言えば、経験をつめばほとんどの医師が硬膜外ブロックが熟練のレベルまで到達するのではありません。それは手術医にうまいへたがあるのと同じことです。何年やっても硬膜外ブロックの技術がいまいちの医師はかなり多いのです。それらの医師のレベルでは、手技に時間がかかる。高齢者など技術的に難しい患者さんでブロックができない。その間患者さんはより強く注射の痛みを感じる。硬膜外ブロック施行時の最も多いミスである硬膜を穿刺する可能性が高くなる。一定レベルまで技術の到達したペインクリニック医でも3000回に1回くらいの硬膜穿刺は避けられないとされていますがその頻度がずっと高くなります(自慢話になり恐縮ですが、私はこの2年間9000回ほどの硬膜外ブロックをおこないましたが、硬膜穿刺は1回もおこしていません)。よく患者さんが他の医療機関で腰にブロック注射をしたら、2時間も足が痺れたなどと言われる方がいますが、多くは硬膜穿刺によるものです。
 硬膜外に注入する薬剤は一般的にはキシロロカインやカルボカインなどの作用時間が短いものが使用されることが教科書を見ても、また他の医療施設でも実際にも多いのですが、どうしてもこれらは長期的な効果が弱い傾向にあり、私はネオビタカインやアナペインなどの作用の強いまた作用時間の長い局所麻酔薬を長年の経験で男女、年齢、体格などを勘案して生理食塩水で希釈して40分ほど安静にすれば帰宅できるが、効果は長く続くような使用法を行っています。